留学生の就職支援をする在留資格制度と今後について

Akiko Ohkubo

留学生が日本で就職しやすくなることを狙いとした在留資格に関する制度は多くありますが、2023年度中にさらに利用しやすく緩和される2つの制度があります。「日本語学校卒業者の就職活動のための在留資格」と「専門学校卒業者の高度人材ビザの要件の一部緩和」の2つのニュースを紹介します。

留学生が卒業後に就職活動を継続するための「特別活動」について

日本の学校を卒業をした留学生は、卒業までに就職先が決まっていない場合には、「特定活動(就職活動)」に変更することで、最長で1年間、引き続き、就職活動をすることができます。
以前は、大学と専門学校に通っていた留学生が対象でしたが、2022年7月より日本語学校に一定の条件のもと拡大しました。

元留学生に係る要件

元留学生であれば当然に「特定活動(就職活動)」がもらえるものではありません。一定の要件があります。対象は以下のいづれかに該当する場合になります。

大学卒業・「留学」の在留資格で在留し、日本の大学を卒業した
・卒業前から引き続き就職活動を行っていた
専門学校卒業・「留学」の在留資格で在留し、日本の専門学校を卒業した
・卒業前から引き続き就職活動を行っていた
・門課程における修得内容が「技術・人文知識・国際業務」等、
就労に係るいずれかの在留資格に該当する活動と関連がある
日本語学校卒業海外の大学を卒業している
・「留学」の在留資格で在留し、日本の大学を卒業した
・卒業前から引き続き就職活動を行っていた

上記と就職活動をする意思に加えて、学生時代の在留状況がよくなければなりません。この「特定活動(就職活動)」を申請するためには、学校から「推薦状」をもらう必要がありますが、出席率や成績がよくないと発行されません。また、オーバーワーク(アルバイトのし過ぎ・認められている時間以上に働くこと)をしている場合も推薦状はもらえません。

日本語学校に係る要件

日本語学校については、大学や専門学校と異なり、どのような学校でも「特定活動(就職活動)」が取れるわけではありません。日本語学校については下記のような要件があります。

  1. 平成2年法務省告示(145号)の別表第1に掲げる日本語教育機関であること
  2. 直近3年連続で地方入管から告示基準に規定する「適正校」である旨の通知を受けていること
  3. 職業紹介事業の許可の取得もしくは届出を行っていること又は就職を目的とするコースが備えられていること
  4. 在籍していた留学生の日本での就職につき、直近1年で1名以上又は直近3年で2名以上の実績があること
  5. 就職支援のため卒業後も定期面談で就職活動の進捗状況の確認と情報提供をすること
  6. 継続就職活動「特定活動」の在留期間内に就職が決まらなかった場合又は就職活動を止める合に帰国指導を行うこと

▶参考:出入国在留管理庁「大学等を卒業後就職活動のための滞在をご希望のみなさまへ

2023年度中に「日本語学校」の要件が緩和される

日本語学校に通う元留学生が就職活動をするための在留資格「特定活動(就職活動)」を取るためには、日本語学校自体にも厳しい要件がありました。
この厳しい要件が2023年度中に緩和される可能性があります。2023年9月10日の日経新聞に下記のような記述があります。

政府は外国人留学生が日本語学校を卒業後に国内で就職活動するのに必要な在留資格を取得しやすくする。在籍校が3年連続で留学生管理の「適正校」であることを求める要件を緩和し、直近1年でも適正だと国が判断すれば認める。優秀な留学生が就職しやすい環境を整える。

まずは国家戦略特区を対象に始め、運用を検証する。政府が2023年度中にも既存の通知を見直す。

出典:日経新聞「日本語学校卒の留学生、就活しやすく 学校要件を緩和「3年連続適正」見直し」2023年9月7日

緩和がされれば、より留学生にとってチャンスが広がることになりそうです。

日本語学校卒の留学生、就活しやすく 学校要件を緩和(日経新聞 2023年9月7日)
日本語学校卒の留学生、就活しやすく 学校要件を緩和(日経新聞 2023年9月7日)

専門卒の留学生が「技術・人文知識・国際業務」に変更しやすくなります

日本で留学する学生さんは、学校を卒業をしたら日本で就職するか帰国をするかを選ぶことになりますが、日本で就職をする場合、多くの方が「技術・人文知識・国際業務」か「特定技能1号」という在留資格を選択します。「技術・人文知識・国際業務」は最終学歴が専門卒の場合は厳しい内容でしたが、2023年秋を目途に緩和される可能性はあります。

「技術・人文知識・国際業務」について

就労ビザの一つである「技術・人文知識・国際業務」では、学校で勉強した内容に関連する業務に従事することが条件となりますが、専門卒の場合はこのハードルがなかなか高いものになります。

「技術・人文知識・国際業務」で認められる活動範囲は下記のように定められております。

本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野もしくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術もしくは知識を要する業務又は外国の文化に基盤を有する思考もしくは感受性を必要とする業務に従事する活動

出入国在留管理及び難民認定法

もっとざっくりに説明をすると、『技術・人文知識・国際業務』はこのような在留資格になります。

会社等において 学校等で学んだこと/実務経験を活かした 知識や国際的な背景(言語や外国の感性等)を要する(「単純作業」、「訓練で習得する業務」、「マニュアルがあれば遂行可能務」等を除く)仕事をすることを目的とした在留資格(ビザ)

この在留資格を申請できる外国人は「大学を卒業している」・「日本の専門学校を卒業している」・「10年の実務経験がある」方になります。翻訳通訳業務を行う場合は、その実務経験が「3年以上」もしくは「大学卒業」以上になります。

「大卒」と「専門卒」の違いとこれから

学歴や職歴の要件のある「技術・人文知識・国際業務」になりますが、勉強したことと業務内容がリンクしている必要があります。大卒以上の場合は比較的緩やかに見られますが、専門学校卒業の場合は厳しく関連性を審査されることになります。
専門学校で学んだ科目で業務内容のうち関連する科目数が1,2科目では「専攻科目と従事しようとする業務内容が関連している」とはみなしてもらえません。具体的な割合までは公表されていませんがそれなりの割合の科目が関連している必要があります。
一方で、大卒者の場合には出入国在留管理庁の「入国・在留審査要領」に記載されている通り、勉強内容と業務内容については比較的緩やかに審査をされます。

大学を卒業した者については、大学が学術の中心として広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を教授研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを目的とし、またその目的を実現するための教育研究を行い、その成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与されていることを踏まえると(学校教育法第83条第1項、第2項)、大学における専攻科目と従事しようとする業務の関係性については、比較的緩やかに判断されることとなる。

出入国在留管理庁の「入国・在留審査要領」

このように、専門学校を卒業していても、業務内容次第では「技術・人文知識・国際業務」を許可が得られない場合もありました。しかし、これが「認定校」であれば緩和されることになりました。つまり、国の認定校卒業生は関連が薄い分野でも取得は可能となり、大学卒の留学生と同じ扱いとなります。
当事務所では、毎年多くの留学生から就労ビザへの変更手続きを行っておりますが、この変更はかなり大きく、就職の幅が広がるよいニュースではないかと思います。

専門学校の留学生、就職先拡大 「専攻に限定」秋にも緩和(日経新聞 2023年7月23日)
専門学校の留学生、就職先拡大 「専攻に限定」秋にも緩和(日経新聞 2023年7月23日)

まとめ

以上、留学生の就職支援につながる2つのルール変更について取り上げました。
両方のニュースともこれから確定情報が出て、ルール変更が行われる「これからの制度」になりますが、両方ともよいニュースであることには違いありません。
多くの優秀な留学生が日本で就職できる環境が整うことを期待しています。

大久保章子
大久保章子
行政書士
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